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Red Orchid
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 第二章 彼たちの心情



 俺がこの学校に来て、やっと1週間が過ぎた。

 初日こそ、色々あり、神経をすり減らしたりしたが、あれから、特に問題もなく、俺は平穏な学園生活を手に入れていた。
 相変わらず、姫扱いというのは変わりがないのだが、それも、もう、慣れた。自分の順応性の高さが今の俺の密かな自慢だ。

 ちなみに、俺の周りをうろつき、騒がしかったナイト気取りの男達は、その都度椋介に撃破され、今では椋介が教室に居ると寄って来なくなっていた。
 あの時智章が『椋介も居るし』と言っていた意味が判った。椋介頼りになる存在だ。うん。

 そして、藤平には、あれ以降お目にかかってない。俺自身訪ねていないから当たり前の事だ。本当は、お礼に行った方がいいと思うのだけれど、【君子危うきに近づかず】って言葉が示すように、わざわざお知り合いになって危険を募る事もないだろうから放置中だった。

「樹哉くん、今日って、早く帰る?」

 授業が終わりそんな事を考えながら帰る準備をしている俺に智章が話しかけてきた。

 智章も帰宅部だという事が判り、俺はほとんど毎日智章と一緒に帰っている。

 智章は俺の机までくると、無人になった前の席に腰を下ろし、俺の方を向く。
 俺は智章の言葉で、今日は一緒に帰れないかな。と検討をつけた。

「何?また委員会でもあるの?だから一緒に帰れないのかな?」
「そうじゃないんだけど、あのね、樹哉くんが良かったら、一緒に剣道部に椋介見に行かない?」

 智章がいたずらを思いついた子供のような顔で、俺を見つめる。

 いや、可愛いです。その顔。智章ってば、俺を煽ってる?

「どうして?」
「えーと、椋介って人に練習とか見られるの嫌いなのね。特に、仲いい子とか仲良くなりたい子とかに見られると駄目なんだ。照れちゃって、ぎこちなくなっちゃって練習だと弱くなっちゃうの。だからね、僕と樹哉くんで見に行って椋介を鍛えてあげようかな。と思って」

 智章……それ、余計なお世話とか言うんじゃないのか?
 というか、嫌がらせ?

 最近気がついたけれど、智章は、可愛いくて健気な印象なのに、結構ないたずら好きだった。それも、古い昭和を思い出すいたずらや、笑えない物がわりと多い。
 この前、椋介にやったいたずらが古すぎてびびった程だ。
 それは、昼休みの食堂だった。沢山の生徒が集まるそこで、鳴り響いた「ブ、ブブーッ」と言う音は正に壮観。ぶーぶークッションを仕込んでた。ありえないとその場の皆が思っただろう。
 お腹を抱えて笑い転げる智章に、どう対処していいかわからない俺と憮然として冷静に振舞う椋介。
 三人三様の俺達を見てみぬフリをするその他大勢。俺は、苦笑いを浮かべて、智章のいたずら心が俺に向かないようにただ祈るばかりだった。

「ね、智章、あんまり人の嫌がる事しちゃ駄目だよ?」
「うっ、……そうだよね」

 俺に注意されて、しゅんとする智章の様子があまりに可哀相で、俺はつい智章の願いを叶えたくなってしまった。
 弱いんだ、俺、こういうの。
 家のリョウタしかり、豪望さんしかり。で、今は智章だ。

「ああっ、でも、俺も椋介の、というか、剣道って興味あるから、一緒に見に行くよ?」

 俺がそう言うと、智章はぱっと顔を上げ、見る見る破顔させていた。
 その笑顔もめちゃめちゃ可愛い。

 ……やっぱり可愛いな、智章は。

「やったぁ。じゃあね、えーと……」
「お前ら二人で何の相談だ?」

 話題の椋介が智章の後ろから顔を出す。
 気付かなかった智章は飛び上がらんばかりに、驚いていた。

 なにもそんなに驚かなくても……

「べ、別に、何でもないよ」

 智章は可哀想な位動揺している。
 これじゃ聡い椋介にすぐ悟られてしまな、と俺が苦笑して見ていると、智章が救いを求めて俺に視線を送ってきた。

 しょうがないな…、と思いつつ、俺は助け舟を出してやった。

「今ね、俺の部活をどうするか相談に乗ってもらってたんだよ」
「相沢は部活するつもりなのか?」

 まんまと椋介は俺の言葉で、智章から意識を反らしていた。
 はは、結構容易いのな?

 智章の顔を見ると感謝の意を浮かべて、苦笑していた。
 これは、智章に何か奢って貰もらえそうだ。…だったら、智章のキスとかいいな……と、またもや不謹慎な事を頭に浮かべてしまう。頭の中では全く自制が聞かない暴走中の俺でした。ごめんね、智章。

「…何、ニヤついているんだ?」

 そんな妄想が顔に出ていたのか、椋介にそう言われ、慌てて顔を引き締める。そのまま椋介に顔を向けると、不自然に赤い顔が目に入った。

 ……椋介?なぜ顔が赤い?

「……なんでもないんだけど。……えっと、部活だよね?うん、俺なんか入ろうかな、とか思って」
「そうか、何かやりたい事でもあるのか?」
「別にないから、後で部活回ろうかって智章と話ししてたんだよ。ね、智章」

 俺が智章に向かってウインクすると、「そうなんだ」と相槌を打つ。
 智章は自分がボロを出さないように、喋る事を放棄したようだった。

「じゃぁ、けん……イヤ……いい」

 珍しく、言い淀む椋介を不審に思ったが、それを追求されたくないのか、単に時間なのか、椋介は、「じゃあ、決めたら教えてくれ」と言って去っていった。

 椋介が教室から去るのを目で確認してから、智章が俺に向き直る。

「椋介、きっと剣道部には来るなって言いたかったんだよ」
「え?そうかなぁ〜?」
「たぶんね、ふふふ、でも行くんだもんね〜」

 その笑顔に智章のお尻に黒い尖った尾っぽが見えたような気がした。

 −−−−智章、二重人格?

 俺達は、椋介が練習に集中する頃合を見計らって、それまで教室で時間を潰すつもりで居たが、椋介というストッパーが居なくなった事で、俺達の周りに集まりだした奴らを避けるのに、予定より早く出る破目になった。

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