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Red Orchid
本編 > 第二章 彼たちの心情 >

「お前、本当におもしれー、気に入った。食うだけには勿体ねーな。俺のもんになんねぇ?」 

 普通の声で、藤平はそう言った。
 さっきまでの近くにいる俺にだけ聞こえる音量ではない。椋介にも聞こえているだろう、いや、椋介に聞かす為なのか?

「……嫌です」

 いくら、藤平の好感度が上がっているといっても、藤平の所有物になどなる気はない。
 当たり前だろう、俺は【物】ではないのだ。
 たしかに、藤平はテクもありそうだし、情事を楽しむだけの関係なら、断る事もないのかもしれないけど。
 ああ、でも駄目だ、ここでは、そんな事知りませーん的な自分なんだ。……うん?だったよな?

 断りを即答したものの、関係について悩むどうしようもない俺の背後から椋介の怒気を含んだ声がした。

 怒気……
 ……ばれた?

「藤平さん、樹哉はそんなんじゃないですから、それに、いい加減離れてください」

 藤平へだよな。ははは……よかった。

 安堵の吐息を吐くものの、藤平に抱き込まれていた俺の耳に届く椋介の声が近い。すぐに椋介の手の熱さを肩に感じた。
 そのまま肩を引かれる俺。
 と、同時に、藤平が俺を解放する。

 あっけなく俺は引き剥がされ、椋介の胸に後ろ向きで倒れこんだ。それをしっかり抱き止めてくれた椋介の身体からふわりと雄の匂いがする。

 藤平との接触で、中途半端な欲情が漂っていたのか、その匂いに反応しそうになる自分。
 節操がないな……と自嘲の笑みが漏れた。

「大丈夫か?」

 そんな俺に椋介は囁き、肩をぐっと押して自分の横に俺を一人で立たせてくれた。
 チラリと椋介の方を向くと、心配そうな椋介が俺を見ている。

「うん、大丈夫」

 と笑顔を見せると、椋介は「そうか」と短く呟き、顔を引き締め、藤平へと向き直った。

 ……椋介の言う、大丈夫とはきっと【何もされなかったか?】と言う事だろうが、俺の大丈夫は【気にしていない】と言う大丈夫。微妙に違うが、それは、まあ、いい。よな。うん。

 そう思いながら、目線を椋介と同じように、藤平へとやると、面白そうにニヤリと笑う顔が見えた。

「ふーん、そんなんじゃない、ねぇ……、つーかさ、中上。お前が言う事じゃないんじゃねぇ?お前に聞いてねーし。お前、ここいつの何なわけ?」
「……」

 藤平の言葉に、声が出ない様子の椋介。

 椋介、そこは黙る場所か?
 というか、友達だろう。だから怒ってくれているんだろう?
 ……違うのか?

 椋介の無言の意味を図りかねている俺だったが、何かに気付いたらしい藤平の次の言葉で意識を藤平へと戻された。

「ま、どうでもいいか。お前の事は。なぁ、樹哉、今日のところは、逃がしてやるよ。面倒くせーのがいるからな。でもお前に興味があるのは変わりねぇから、それだけは覚えてろよ。俺は諦めわりーから」

 そう言うと、藤平は片手をひらひらとさせて、俺と椋介の横をすり抜け立ち去った。

 後に残されたのは、苦渋の表情を浮かべる椋介と、曖昧な笑顔を浮かべる俺。
 
 ……なぜか、気まずい。

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