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Red Orchid
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 プロローグ


 この日の私立白鷺学園高等部2年F組の教室はいつも以上に暑かった。
 初夏だというのに、真夏の最高気温なみの予想が立てられたその暑さは朝から容赦なくそこに向かって気温を上昇させていた。 教室に入り込む筈の風はコの字型の校舎で教室棟の前に立ちそびえる特別棟に阻まれ流れを失っている。中庭のアスファルトから発生する熱気が発散する事なく二階のその教室まで伝わってきて暑さを増長させた。
 思春期真っ只中の男ばかりが集まる教室内はその熱気で蒸れ、彼達のほとんどは不快な暑さを耐えていた。
 そして今日一日その暑さの中での授業が苦痛だと感じ、やる気なくダレた。
 
 そんな彼らだったが、その内数人が教室の前方にある開け放たれたドアから人が入るのを感じ、そちらを見る。
 その数名は声を上げずに固まった。それに気付いた数名もまた顔を上げる。そして、固まった男の目線を辿り、それにたどり着くと自分も固まる。連鎖するように、教室全体が一点を集中し、ダレた空間が引き締まった。
 
 担任の大野と共に教壇に立つ見慣れない一人の容貌に全員が呆然としていた。

 短く切りそろえられた漆黒の髪は顔の輪郭を沿うように耳の横だけが長く垂れ、少し横に流された長めの前髪の下にはアーモンド型の人より大きな目が意思強さを物語っている。その瞳の色は外国の血が混じっているのか緑に近い、すっと通った鼻、小ぶりの形の良い唇は濡れたように光を放っていた。
 ただ、作られた造形美のようなその顔からは暖かさを感じず、それゆえ誰も声を上げられなかったのだ。

 しかし、その静寂も長いものではなく、担任の大野によって破られる。

「クラス委員?おい……」

 何時もある挨拶の号令がない。疑問に思った大野はクラス委員を見るが、彼は動かない。いや動けなかった。
 それを見た大野は、自分の横に立っている男をちらっと見て、なにかを納得したようにうなずき、ため息をついた。
 「しかたねーか」とぼそっとつぶやくと、何時もより大きな声を張り上げる。

「あー、転入生だ、ほれ自己紹介!」

 のほほんとその美しいものの背中をバシッと叩く、その様子に、数名の生徒が大野に殺意を持つ。
 だが、次の瞬間その殺意は霧散した。
 美しい唇が開き名前を告げたからだ。

「相沢樹哉です。中途半端な時期の転入ですけど、よろしくお願いします」

 樹哉は自己紹介を終えるとにっこりと微笑む。
 綺麗な造形美は人間の温かみを放ち、樹哉の背後には大輪の薔薇が咲き乱れた。ように見えた。

 その次の瞬間湧き上った低い声の歓声は二年のその教室から一番遠い特別棟の職員室にまで響き渡っていた。

 自然現象の熱気で暑かった教室内が違う熱気で包まれる中、樹哉の何度目かの学校生活が始まったのだった。

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