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Red Orchid
本編 > 第三章 日常の秘密 >

 あの後、椋介と智章の着替えを待って、教室へと戻る最中にランキングの事を聞いてみた。
 詳しく話してくれたのは、智章で、それを聞きながら、椋介は不機嫌な顔をして始終無言だった。

 椋介の不機嫌な理由に、少々興味が湧いたが、それよりも、ランキングに纏わる話しに興味を引かれ、結局椋介にその理由を聞けなかった。

 ランキング…正式名称「白鷺ミスコン」略して白ミス(そのまんま……)。

 男に【ミス】はないだろうと思うが、智章いわく『ミスターコンテストだから略してミスコンなんじゃない?』……そういう問題だろうか?

 ともかく「白鷺ミスコン」とは、年に1回行われる全学年を対象にした人気投票のようだ。
 これは、雪村にも聞いていた。

 生徒一人一票を期間内に投票する。
 上位入賞者に特権なんてものもある訳でもなく、ただ、上位3人が行事ごとに借り出されるらしい。

 体育祭とか文化祭とか、新入生歓迎会とか、そんな時に壇上で挨拶したり、場合によっては握手会とかあるらしい。
 ……握手会ってなんだっ!

 だから、よほどの目立ちたがりでない限り、選ばれるとわずらわしい事になるのだと、智章は言った。

 そして、今年の白ミスは、あと1ヶ月で投票が始まるのだと。

 「あと、白ミスには裏があるんだ……」

 そう言った智章に、それは何だ?と問いかけようとしたけれど、ちょうど授業が始まるチャイムがなり、その話しは昼休みに。という事になった。

 ちなみに、白ミスの事を俺に言わなかった理由については、それよりも、クラスとか学園に慣れて欲しかったから言わなかったそうだ。

 智章に、「いじわるで言わなかったとかじゃないから」と必死で謝られてしまうと、白ミスのようなイベントは事前に教えておいて欲しかったし、それも学園に慣れるという事じゃないのか?とは、とても言えなかった。

 単純に、智章の気遣いは、うれしい。
 たとえ、微妙な気遣いだったとしても……



 今、俺と智章は食堂に来ている。
 正確には、食堂の入り口で6人の3年に取り囲まれて、その場から動けない状態だった。

 着くずした制服に、色とりどりの頭。じゃらじゃらとつけたアクセサリーはつけている者の頭の悪さを象徴しているようだ。そんな男たちに囲まれて、困っている俺たちを助けようと動くものは誰もいなかった。

 なぜ、こんな事になってしまっているのか。
 それは、俺の所為だ。

 プールの後の授業が終わり、食事に行こうとした所を、椋介が大野に呼ばた。『すぐに戻る。それまで、ここで待ってろ』と言う言葉を残し教室から姿を消した直後に、いつものように自分の元にわらわらと集まりかけたクラスメートに俺は辟易してしまった。誰かが口を開く寸前に、思わず立ち上がり、智章をつれて教室を出た。これ以上、教室で待ってうっとうしい男たちからの言葉を聞き続けている気になれなかったからだ。

 この日、プールで見た[ビショップ]からのメールが、思いの外俺から平静さを奪っていたのだろう。
 いつも以上に、イラついていた。

 だから、智章の『椋介がくるまで、教室にいた方がいいよ』という忠告を『大丈夫、お腹すいたから』という言葉で強引に黙らせてしまった。

 結果、椋介の偉大さを知る事になる。
 いつも、食堂へ来ると椋介が率先して前を歩く。確かに自分達に向けられる視線やざわめきはあるが、強引な声を俺にも智章にもかける者はいなかった。

 それは、椋介のおかげだったのだ。と改めて感じた。

「今日は二人だけなんだ?」
「ね、ね、君たちって、二年だよね〜」
「二人だけだと危ないから、親切な先輩が一緒に居てあげよう」
「やっさしぃ〜先輩だよ。俺たち」
「こんな所で食べなくてさー、屋上で食おうぜ」
「いいねぇ!屋上。な、行くよな」

 そんな言葉を吐く、目の前の男たちに、だんだんとムカつきを抑えられなくなっていく。

「結構です。僕たち、中上と待ち合わせてますから。ここで食べます」

 智章は、俺の前に立ち、気丈にも男たちに言い放っているが、恐怖に身体が少し震えていた。

「ふーん、中上ねぇ」
「今のうちに、連れてくか」
「そうしようぜ」

 男たちの一人が智章を捕まえるべく、手を伸ばしてくるのが見えた。

 俺は智章よりも、ここにいる誰よりも強いだろう。
 なのに、偽りを演じる俺は智章に庇われていて、そんな俺では智章を守れない。

 しかし、智章を犠牲にしてまで、守らなければいけない自分などはいない筈だ。
 
 俺は素早く、智章と男の間に割り込み、伸ばされた手首を掴んだ。
 唖然とする男たち。

「智章、どいてて」
「樹哉くん?」

 前を見据えたまま、智章に声を掛けると、驚きの声が返ってきた。
 後で、説明しないといけないなぁ〜。と、どこかすっきりとした思いに、俺は微笑んだ。

 そんな俺の表情に気づいた男たちは、表情をにやけた好色なものに変えていく。

「わ〜触られちゃった。誘ってんの?」

 手を掴んだ男がそう言うと他の男たちは『ぎゃはは』と下品に笑いながら、智章に手を伸ばしかける。
 俺はそれを阻止しようと、掴んでいた手を緩めた。

 その隙を逃さず、横から伸びてきた別の男の手が俺の腕を掴みに来る。
 寸での所でそれをかわし、智章へと伸びた手を殴り払った。

「痛ってぇ。手折れたかも」
「あーあ、どうすんだ?」
「弁済、身体で払うか?」

 殴られた手を振りあげ、痛さをアピールする男。
 古いやくざ映画で聞くような事を口々に発する男たちにあきれ返ってしまう。

「わー、そんな台詞久々に聞いたぁ。古〜。昭和のチンピラみた〜い。頭わる〜」
「み、樹哉くん」

 もう、完全に偽るのをやめた俺は、好戦的になっていて、にっこりと笑いながら、挑発した。
 すぐに、周りの男たちの空気が変わるのを感じる。

 智章の怯えた声に、ますますやる気が出てしまう俺だった。

「てめぇ、馬鹿にしてんのか?」
「やられてぇみたいだな」

 地に響くような低い声で、唸るかのように言い、睨みつけて来る目が12個。

 さて、どうしたもんか。
 智章を守りながら、この6人を相手にする。
 
 ま、いっか。弱そうだし。

 とりあえず、渡り廊下の側面に智章を置いて、左右を気にしながら、倒していく事にした。
 男たちを目で牽制しながら、智章を背後にじりじりと、移動を開始する。
 
 そんな俺を睨みながら見ていた、男たちが動こうとしたその時、

「何をしている?」

 俺の背後から、鋭い冷気を持った声がその場に響いた。
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