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Red Orchid
本編 > 第三章 日常の秘密 >
(5)

 ランチセットをそれぞれ手にしながら、どうにか空席を見つけ、テーブルに着く。
 未だ不機嫌な椋介に、俺と智章は、いたたまれない気分でただ黙々と食事を食べていた。

 ランキングの話し、聞きたいのにな……と、思いつつ、それを口に出来ない重苦しい空気に、だんだんと、俺は腹がたってくる。
 そもそも、椋介が居ないと食堂にも来れないってどんなだっ!
 この学園おかしかないか?こらっ!

 心の中で精一杯の悪態を付く。

 そんな俺に気付いたのか、椋介がコホンと咳払いをして、自分の不機嫌さを緩和させた。
 そして、ポケットから何かを取り出しテーブルの真ん中へそれを置く。

 それは、新聞のような体裁をした紙だった。

「……何?これ」
「明日発行の白鷺新聞。これをお前に渡して、説明してやれと大野に言われた」
「この時期のこれって……もしかして、樹哉くん載ってる、とか。…あはは、ない。よね?」 

 智章が乾いた笑いを漏らしながらも、不安そうな表情を浮かべる。
 俺は、何がなんだか分からないので、椋介が口を開くのを黙って見た。

「それの二面を見ろ」

 椋介は、顎で新聞を指し、自分は腕を組んでまた不機嫌そうな顔をする。

 俺は不審に思いながらも、椋介の言う通りに、新聞を取り二面を見た。
 そして、中を見た途端、絶句してしまう。

「ああっ!これっ、み、樹哉くん……っ」

 隣から、それを覗き見た智章が声を上げた。

「……これ、何?なんで、俺が載ってるの?」

 そこには、大きな文字で俺の名前と写真が載り、

 『大本命!来校!琉維姫危うし!今年の三強は波乱有り?』

 との文字が躍っていた。

「とにかく、読んでみろ」

 椋介のその言葉に、とりあえず文章に目を馳せる。

 『初夏にも関わらず暑苦しい6月中旬、2Fに突如舞い降りた大輪の華。彼の名は相沢樹哉(6/09日生まれ 2F 17歳)。初見での2Fから発せられた歓喜の雄叫びは、職員室にまで響き渡ったのは記憶に新しい。そんな彼だからこそ、今年の白コンで三強に選ばれる確率は大きいと編集部は見ている。現に転入してから数日の内に非公認のファンクラブが出来ていることからもそれを証明しているようなものである。三強(雪村和希(3A)、藤平真也(3G)、原柴琉維(2B))の中でも特に三位の琉維姫こと原芝くんは苦戦を強いられる事になろう。今まで三強は不動となっており、恒例のトトカルチョの予想は上位のみ予測可能であった。が、今年は相沢くんが居る事で、予想不能に陥っている。その為誰にでもトトカルチョ上位入賞を狙えるとも言え、今回はいつも以上に白熱する事必死である。そこで、本誌の予想は───…』

 其処まで読んで俺は絶句してしまった。

 大輪の華ってなんだーーーっ。
 非公式ファンクラブ?
 琉維姫……姫って。というか、誰?
 藤平って真也っていうんだ…って!二位?人気あるんだね……藤平が握手会…に、似合わんっ。
 で、で、トトカルチョぉぉぉ〜〜〜!?賭け事か、賭けるのかーーーーーっ。

「…これ、どういう事?」

 あまりにも、突っ込み処満載な記事に目眩を感じながらも、どうにか、口を開いた俺の問いに答えてくれたのは、大野に頼まれた椋介ではなく、哀れんだ目線を投げかける智章だった。

「うん、ま、言いたい事は色々あるだろうけど、まずは、説明するね」

 そう言って、白ミスの裏について、話してくれた。

 智章曰く、

 白ミスは表のランキング戦の順位を予想投票する『白ミストトカルチョ』がある。

 参加自由なそのトトカルチョ。
 参加方法は、まず、トトカルチョ会報の配布を待ち、参加権を手にする。その会報に掲載されている文具や生活用品などを購入する際に、予想順位を記入して提出するというシステム。
 提出期間は、会報配布から白コン投票の3日前まで。

 順位の集計方法は単純で、各自予想した上位10位までで予想が当たった部分の点数を合計する。点数の振り分けは白ミス1位が20点、2位が15点、3位が10点、4位が6点で以下一点づつ引かれた点数をもらえる。

 景品は、1位国内旅行3日か文具または同額の図書券、音楽券、2位国内旅行1泊か同額の文具または図書券、音楽券、3位文具または図書券、音楽券3万円分 その4〜10位まで文具または図書券、音楽券の順位に応じた金額。あとは「ぞろ目賞」「ブビー賞」がある、実に本格的なものだった。
 同じ点数の場合はその順位の景品相当の金額が人数で割られ金権にて提供されるようで、その辺も十分に考えられているようだ。

 一口1000円のそれは、結構な人気で、一人二口以上買うものが続出し、毎回利益を出している。そして、その利益は主催新聞部が4割、それ以外が寄付と言う名目でその時々の学園運営の一部にまわされているというから、びっくりだ。
 これって限りなく黒に近い合法賭け事だな……。

 これが、雪村の言っていた【下馬評】ってやつの正体か……
 でも雪村は、『気を付けた方がいい』と、言っていた。

 白コン上位食い込むと何か危険があるという事か。
 これだけ、お金が絡んでいると、順位を操るべく思う人間が妨害に出たりする可能性はあるからな。

「でもさ、そんなトトカルチョよく先生達許してるね」
「あ、それはね。総理事が許してるから。無類の賭け事好きで、白ミストトカルチョも毎年楽しみにしてるらしいよ」

 総理事って隆徳さんのお父さんだよな。
 何やってんだか……。

「で、そのトトカルチョがある白ミスに俺はノミネートされてるんだ……」
「ノミネートっていうか、予想なんだけど、この新聞に載るくらいだから、きっと、上位確実だよ」
「そうなの?」
「うん。で、それが最大の問題なんだ」

 そう言うと智章は声を潜めた。

 食事をほぼ済ませた智章は、俺の持っている新聞の一部を指さして「こいつ……」とトンと叩く。
 そこには、男とは思えないくらいに愛らしい顔立ちの少年が笑っていた。

 智章は可愛いけど女に見える事はない。だが、そこに写っている少年は女性的な雰囲気を醸しだしている。珍しく、俺の食指にひっかからない【可愛い】男だった。

 そして、その写真の下には、『三強脱落か?笑顔の琉維姫』と書いてあった。

「この琉維姫って人が何?」
「こいつね、すんごく白コン三強に拘っててね、自分が三強になる為だったら手段を選ばないんだ、だから今回樹哉くんがこんなに大々的に三強に絡むって書かれてると、絶対何か仕掛けてくる。と思う……」

 苦々しく顔を歪めて、智章はため息をつきながら、「三強なんて、あんなのどうでもいいのに」と付け加えた。

 ああ、だから、妨害工作ってのを仕掛けてくるのか。こいつは。
 ま、何か仕掛けてきても、大丈夫だろ。

 それよりも、珍しく、人をこいつ呼ばわりする智章の方が気になった俺は、そのままを口にした。

「智章、この琉維姫って人と何かあった?」

 俺がそう問いかけると、智章はビクッと身体を震わせるとすぐに固くなった。
 その反応を見て、何かあったと確信したが、それ以上話しを聞いて良い物か迷う。 
 
 戸惑っていると、今まで険しい表情で無言を貫いていた椋介が、口を開いた。

「去年の白コンの時に、智章は、原柴に呼び出されて脅された。屈しなかったが、それ以来原柴は智章になにかと突っかかってくる」
「ちょと、椋介、それじゃ、僕が三強になりたいみたいじゃない」

 智章は不満そうな顔で、椋介を睨んだ。

 脅された内容が気になる所だが、それはあえて、聞かないでおこう。
 というか、脅されたって事は、智章、もしかして……

「あの……智章、今俺が三強に絡むかもしれないから、その原柴って人が何かしてくるかもしれないんだよね?」
「うん」
「だったら、去年のランキングに智章も絡んでたの?……もしかして上位に」
「……あ、うん。でも、僕だけじゃなくて、椋介も。だよ。去年の結果は、えーと、ほら、ここに載ってる」

 そう言って指さした場所には確かに智章と椋介の名前が載っていた。

 4位 石津千晶。そして、6位 中上椋介────

 俺の初めての日本での友達って何げにすごいんだ!さすが!俺。

「すごい。二人とも」


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