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Red Orchid
本編 > 第三章 日常の秘密 >

 そう素直に感想を述べると、それぞれに、苦い顔をしていた。

「いや、すごいって事ないし、4位って言っても、原柴くんとはかなり開きがあるし……」
「智章の投票数は圧力が掛かっていた。だから得票数に差が出ただけだ」
「椋介、だから、その言い方だと、僕が原柴くんより人気あるみたいだって」
「あの時、事前投票では実際原柴よりも得票数は多かっただろ」
「すんごく僅差だったでしょ」
「だが……」

 そして、なぜか、椋介と智章は軽く言い合いを始めてしまう。

 俺は、それを聞いていて、智章が4位だったという事を椋介が受け入れていないと感じた。

 きっと、椋介は正当な評価を受けられなかった智章の事を自分の事のように感じて悔しい思いで見ていたんだろう。
 たとえ其れが人気投票ってくだらない事でもそう感じる。
 
 それほど、椋介にとって智章という存在はそれだけの価値があるって事だ。また、智章にとってもそうだろう。
 そして、誰よりも解り合っている。信頼し合ってる。
 それは、今までの二人を見ていても分かった事だ。

 自分の事のように、思い合い、信頼し合い、そして解り合える。そんなモノが、この二人の間にあるんだ。と思うと、俺は嬉しさとホンの少しの羨ましさを感じた。
 
 そういう存在があるというだけで、人はどんなに強くなれるか、俺は知ってる。

 それを失った時の絶望も。

 だから、俺はこの二人が何時までも今のままでいられるように、とそっと祈った。



 そうして、俺が感傷に浸っている間も言い争いは続いていて、いつまで経っても二人の話しは平行線を辿り、ケリが付きそうにもない。

「……って!もう、いいってば。それに、三強なんて、僕、嫌だし」
「それは解るが、しかし……」

 俺の入る場所もないので、とりあえず、お茶をすすりながら、二人の様子を眺めていた。

 と、突然自分の背後から、こちらの様子を窺う視線を感じた。
 それは、妬みや嫌悪、蔑み、そんな負の感情を抑える事もなく、発っしている。

 誰だ?

「ふーん、それって三強、馬鹿にしてんの?」

 その声に、後ろを振り返ると、今正に話題の人物────原柴琉維がにっこりと微笑みながら立っていた。

 なんか、今日、背後から話しかけられる事が多いな。

「……別に、馬鹿にしてないよ。ただ、僕はなりたくないって言ってるだけだし」

 智章は眉を潜めて、そう言うと、カタンと椅子を引き立ち上がった。

「椋介、樹哉くん、食べ終わってるでしょ?じゃ、行こうか」

 そう言った智章の顔は強張っていて、よっぽどこの原柴と話しをしたくないんだと思った。
 だから、俺も立ち上がってそこを離れようとした。当然、椋介もそれに続く。

「ま、いいや、今年は石津、関係ないみたいだしね。……ね、相沢ってあんたでしょ?確かに顔は良いけど、それだけで三強になれると思わないでよ?」

 原柴は、可愛い顔を負の感情に歪めて、俺に向かってそう言った。

 あーあ、そんな顔しなきゃ、ほんと、可愛いのに。もったいないと思うよ。
 いつも、こんな風だから、どんなに綺麗に微笑んだつもりでも、それが表にでるんだろう。現に、写真にもその部分が写ってる。馬鹿だな。

 でも、こんな安っぽい挑発に乗る奴いるんだろうか……。
 この手のタイプは、反応したら、キャンキャンと煩い。無視して、さっさと立ち去るに限るな。

 そう思ったのは正解なようで、智章も自分のトレイを手に持ち、無言でその場から立ち去ろうとしていた。

 なのに、収まりきらない男がいたようで────

「たしかに、原柴が3位に入ったのは、顔だけじゃなかったな」

 椋介が、無表情に、爆弾を投下してしまった。

 ……椋介、火に油を注いでどうする……。

「僕が、何したって言うんだよ」
「何って、お前が一番良くわかってるだろう?それとも、ここで、言って欲しいのか?」

 キャンキャンと吠え始めた、原柴に、椋介も食ってかかる。

 俺と智章は、そんな二人を見て、ため息をついた。

 とにかく、このままでは、目立ってしょうがない。
 ただでさえ、さっきの食堂前での出来事で目立ってしまっていたのだ。これ以上は避けたい。

 俺は、椋介のトレイを持って、それを渡しながら、「いいから、もう行こう」と促した。

 せっかく音便にこの場を収めようとしていたのに、原柴はよっぽど争い事が好きなのだろうか?

「相沢って、もう中上たらし込んだんだね。けっこうやるんだ」

 原柴は、恐らく椋介と智章が怒るような事をいきなり口にした。

 いや、原柴。まだ、たらし込んでない。
 たらし込みたい。と。思わなくもないけども。ははは。

 と、俺にとっては大して気にしない事だったが、

「なっ!何、馬鹿な事言ってるっ。そんな訳ないだろう!」
「ちょっと!原柴くん、それって、相沢くんにも椋介にも失礼でしょっ」

 二人はそうではない、思い当たる節があるのか完全に動揺する椋介、そして、友達が馬鹿にされた事によって怒る智章。
 その場はなんとも言えない雰囲気となる。
 
 というか、椋介。俺、まだたらしてないだろう?

 それは、ともかく、もうこれは早く退散しないと、泥沼になると、判断して、俺は撤収に掛かる。

「原柴くん、何わかんない事いってるの?俺男だし、そんなたらしたり?なんて出来ないよ。それに、三強って上位3人でしょ?転入したての俺に、そんな順位とれる訳ないしさぁ。だから、そんなに怒らないで、ね」

 と、雪村のロイヤルスマイルには負けた笑顔を原柴に向けた。

 どうだ。
 これを無視した人間は雪村しかいないんだぞ!

 さあ、原柴、以外な俺の笑顔に、悔しがるか、見惚れるか、どっちだ?

 なのに、原柴は、俺の期待した反応ではなく、なぜか、一瞬苦しそうな表情をした。
 そして、顔を背けてしまった。

 ?

 どうしたんだ?なぜ、苦しそうな表情をする?

 疑問に思うが、原柴が目を逸らしたしたのは、好都合だ。
 今動かなくて、いつ動く。

「ああ、もう、お昼休み終わっちゃう。椋介、智章。急ごう。原柴くんも早く教室戻った方がいいよ。じゃあね」

 早口で二人をまくし立て、トレイを手にさっさと歩きだす。
 椋介も智章も察したのか、俺の後に続いた。

 そうして、俺たちは食堂を出る事に成功し、その後俺は、自分にとって取るに足らない原柴の事などすっかり頭の隅に追いやってしまった。


 ──── だが、俺の笑みを見た原柴の苦渋の表情とあれだけ、絡んできたのに、なぜあっさりと去る事を許したのか、それらをもっと良く考えるべきだった。と、後々後悔する事になるとは、この時の俺には考えもつかなかった。


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