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Red Orchid
本編 > 第一章 正しいネコのかぶり方 >

「樹哉くん、それもう食べないの?」

 食事の半分を残している俺を見て智章が声を掛けた。

 俺は結構小食で、大体普通のハンバーガー1個が適量だったりする。
 ここの食事は男子校だけあって、ボリュームが結構あるから半分も残す事になってしまった。本当は残したくないんだけど。こればっかりは、無理に食べると吐くからしょうがない。
 智章はと言えばほぼ完食。なんだか可愛い智章が男らしく見える。

「あ、うん、もうお腹一杯だから」
「すっごい小食だね。樹哉くんって、だからそんなに細いんだ〜」

 普通の奴が言ったら「嫌味か」、と思うけど、智章は本気で言っているらしく。俺はどう返事していいか迷う。

 そうだよな、細いよな。俺、着やせするし。
 でもな〜智章。俺は肉が付かない分、栄養のほとんどが筋肉に回るんだ。脱いだら凄いんだよ。むっきむきじゃないけど、程よく付いた筋肉は、自分でもうっとりだ。ふふふ。

 内心で、筋肉自慢中の俺に、椋介がどこか怒っているような、心配しているような調子で声を掛けてきた。

「もっと一杯食え、相沢はもっと太った方がいい。不健康だ」
「え?……」

 椋介の言葉とその雰囲気に、同じ事を言った男を突然思い出し、不覚にも動揺する。
 3年も経っているのに、日常的に思い出すその男が腹ただしい。

 嘗て俺の全てだった、今はそばにない存在。

 「もっと食え」「もっと笑え」「楽しいか」「泣きたければ泣け」
 そんな風に甘やかしてくれた、過去。
 そして、

 「お前は汚れてないよ」
 
 その言葉に、俺は縋ってた……

「相沢?」
「樹哉くん?」

 心配そうな二人の声に現実に引き戻される。
 ああ、俺は今、ここに居るんだった。日本の少し変わった男子校に。

 なぜだか、おセンチな感情を追い求めてしまって、呆けていた自分が情けない。

「ああ、ごめん」
「大丈夫?」
「ああ、ちょっとぼーとしてしまって……ごめん」
「よかったぁ」

 ほっとしたような智章の顔。椋介も同じような顔をしている。
 俺の外見で、こんな風に遠いところにいったら、そりゃ心配するわな……。だけど、俺は元々気を使われるキャラでもないから、こんなのは、非常に気まずい。

 普段は、悩み症なんかではなく、どちらかと言うと楽天的だ。だから、あの人の事もこんな風に思い出してそれに浸るなんて事した事ない。なのに、なぜか今日は違った。なぜだ?椋介が似てる?……いや、そんな事ない、よな?

 疑問に思いながらも、この気まずい雰囲気を拭いたくて、話題を変えた。

「あ、ねぇ、そーいえば、智章が言ってた、要注意人物って誰?」
「え?ああ、襲いそうな人?」
「う〜ん、それもあるけど、近づかない方がいい人?怖い人とかも、教えて」

 そう、トラブルを極力回避するには、ぜひとも聞いておきたい。

「うーんとね、柔道部で3年の奈良岡さんと三村さん。あと、バスケ部の松本くん。松本くんはね、2年A組で、髪の長い人。廊下で会ったりするかもしれないから、気をつけて。会ったら教えるから。あとはね、ラグビー部。樹哉くんはラグビー部の部室に近づいちゃ駄目。あそこはもう絶対危ないからっ。一人であの辺行かないでね」

 智章はそう言うと、俺の手を握って、訴えかける。
 かーーー。智章。やっぱし、可愛い。
 ちょっと鼻の下伸びそうな勢いだ。……しかし、俺は智章に可愛いと何回思うんだ?俺って節操なし?いや、でも言ってないし。平気だな。うん。

「こら、二人で絡むな。また周りがうっとうしくなる」

 椋介にそう言われて、周りを見ると。確かに、ちらちらとこちらを見る眼が妖しく光ってる。
 要注意人物って、全員かと思うくらいだ。ほんと。

 俺は、やんわりと智章から手を抜き出し、かしこまってコホンと咳をした。

「えーと、今智章が言ったのは、無理矢理やりそうな人物って事だよね?ラグビー部は、集団で?」
「うん、そう。他の人はね程ほどに気を付けてれば大丈夫だと思う。椋介もいるしね。でも、ラグビー部はヤバイ。今まであそこの部室に引き込まれちゃった子、何人もいるって話しだよ。確かめてないからわからないけど」
「確かにあそこは危ないな、部員個人個人は普通なんだが、集団心理か、集まるとたちが悪い」
「椋介でも助けられるかどうか……」

 智章がそう言うと椋介は不満そうな顔をして、ぼそっと呟いた。

「知ってたら助けられる、だが、その場に出くわしてないから手がだせんだけだ」

 椋介ってちょっと、暗い?というか、今まで笑った顔見てないな。ずーと不機嫌な感じだ。
 なんでだろう。

 しかし、集団レイプってなんだ。虫けら以下だな。と、そんな事言ったら虫に悪いな。

「……なんか、最低だね、ラグビー部。でも、それで、よく退学者とか出ないね」

 俺は、食後のお茶を飲みながら、二人を見て言った。
 素朴な疑問だ。

「えっとね、ラグビー部の主将で3年の滝川さんって人がいるんだけど、その人の親がもみ消してるんだって。噂だけど」

 ちょっと身を乗り出しぎみで、智章は、小さな声で言った。

 ここに来て噂……。
 もしかして、ラグビー部の凶行も噂だったりして。いや、ここまで言うんだから、それは本当なんだろうな。

「噂?」
「うん、噂。でも信憑性は高いよ。だって、一度だけ、つれこまれた子が先生に言って問題になりかけたのに、その子が突然転校しちゃったんだ、それで、その件も流れちゃった」
「なるほどね」

 言い放った智章は、眉を潜め、苦々しいといったような顔をしていた。
 その顔から、智章もやっぱり男だよな。と実感させられる。

 しかし、きったねー、その滝川ってやつ。ムカつくね。俺は。
 でも、こっちからってのも出来ないしな。ああ、なんだよ、俺、今、全然駄目だ。
 こうなったら、もう偽ってる場合じゃない、か?
 ……いや、いや、いや、待て。まて。早まってはいけない。これ以上、親に迷惑かけれないだろ。俺。

 あ、でもその滝川が卒業したら、無力化しそうだし、それまで、不幸が起こらない事を願うしかない。

「まぁ、それはともかく、近づかない方がいいのはラグビー部の部室で、柔道部も要注意。あとは2Aの松本だっけ?それだけだね?」

 俺が確認をすると、智章は、その通りというように、首を縦に振った。
 その時、両腕を組んで俺達の話しを聞いていた椋介が口を挟む。

「襲われる云々は、そんな所だ。あとはな、藤平先輩。この人には注意しろ。襲われる心配はないが、キレたらやばいから、近づくな」 
「藤平先輩?かっこいい人だよね〜」

 椋介は智章のその言葉を聞いて、がっくりとうな垂れてしまった。

「智章〜、お前も近づくなよ?」
「だ、だって、助けてくれた人だし、別にいつも喧嘩してるわけじゃないし」

 ち、智章も襲われた事があるのかっ!
 ……誰だ?そいつ。今すぐここにつれて来いっ。

 俺の手は知らぬ間に力を込めていて、今にも怒りだしそうになっている自分が居た。
 それによって、俺は、結構智章の事大事に思ってるんだ。と気が付く。
 ま、日本で始めて出来た友達だもんな。智章は。可愛いし。
 ……会って一日目だけど。

「その藤平先輩って強いんだね」
「そうなんだ、それにね、無理矢理とかそういうの嫌いらしくて、よく助けてるみたい。実際僕もだしね。それに、顔もすっごくかっこいいよ」
「ふーん」

 智章のその評価に、俺は少しムカついた。
 けど、そういう奴がここにいるなら、俺が何かしなくても大丈夫だと思って、ムカつきを治め、その後ホッとした。

 俺も好き好んで、クラス外の奴とお近づきになんてなるつもりもない。だから、藤平って人とは俺には接点がないだろう。無関係だ。なら別に気にする必要もないな。
 というか、今まで聞いた要注意人物どれも、そんなに注意する必要ないかも、俺より弱そうだし。
 ただ、ラグビー部だけは避けようと誓う。見ないように。希望は、平穏な生活だから。

 それに、今のままじゃ気を付けたくても出来ない……

「わかった。ありがとう。……とりあえず、二人のうちどっちかと一緒の時に、さっき言ってた人と出会ったら教えて。顔わかんないから」
「え?あ、そうか」

 智章が、納得したように、手をパチンと鳴らす。
 そうだよ。そこがわかんないと回避するにもどうしようもない。はは。二人とも大ボケだなあ〜。

 って俺もか?

「あ、やばいぞ、もうすぐ昼休み終わる」
「じゃ、片付けて行こう」
「うん」

 学校要注意人物のレクチャーを受け、俺達は食堂を出て教室へと向かった。

 その途中に俺は要注意人物の真実を垣間見た。

 二年の教室がある廊下で、いちゃいちゃしている二人が居た。
 その内の一人が、俺を見つけるなり、近づいてきて、俺の肩を抱き「ね、今から二人でふけない?」と耳元で囁いた。ベロっと耳を舐めながら、だ。
 それを見た椋介にそいつは引き剥がされ事なきを得たのだが、そいつが2Aの松本だと智章が教えてくれた。

 椋介が強いのか、松本が弱いのか、判らないけど、俺にしたら全然問題ないくらいやっぱり弱かった。
 う〜ん、要注意人物なんてこんなもんね。と認識したのだった。

 やっぱりラグビー部潰しとく?とか。ね。

 いや〜、ないない。落ち着け俺。

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