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Red Orchid
本編 > 第一章 正しいネコのかぶり方 >

 そのまま何事もなく、午後の授業を終え、帰り支度をしている間に、またまた取り囲まれてしまったのだが、それは、椋介が助けてくれた。横目で、「ばいばい〜」と手を振る智章に俺は同じように手を振って、二人で教室を後にした。

 智章を一人で残す事に少々の不安感を感じ、椋介に聞いてみる。

「智章、部活かなんかしてるの?一人で平気?」
「ああ、あいつ今日は委員会なんだ、俺の練習が終わってから一緒に帰る予定だ」
「そうか、毎日一緒に帰ってるの?」
「そんな訳ない。基本的にあいつは帰宅部だからこの時間には帰るんだ。俺は部活だし、一緒に帰るのはこんな風に遅くなる時だけだ」
「あ、そうなんだ。仲いいから、毎日一緒に帰ってるのかと思った。でも、普段、智章一人で大丈夫なの?」
「こんな明るい時間から事を起そうなんて奴らはあまり居ない」

 椋介はさらに、

「ま、ラグビー部の連中でもこの時間は部活に精をだすからな」

 と続けた。
 だから智章の安全は確保されてると言う椋介に俺は安堵の息を漏らす。
 
 それにこの椋介の感じからすると、強姦とかそういうのもは、そんなに日常ではないのかもしれない、と思いなおした。

 椋介が俺と一緒に歩いているのも、俺を守って送るつもりなのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
 階段を降りて、すぐに、俺は下駄箱へ向かったが、椋介は俺と反対方向へと向きを変えた。

 ただ単に行く方向が同じだったってだけか。

 俺は足を止め、そんな椋介を見た。椋介は同じように足を止めると手をひょいっと上げる。

「じゃ、相沢気を付けて帰れよ」
「あ、ありがと、椋介、くん」
「……お前、言いにくいなら、呼び捨てにしていいぞ?」
「ごめん、あんまり「くん」付けってした事ないから……、いい?」

 今までの交友関係で、「くん」付けで呼ぶ習慣がないだけに、違和感があるのは事実なので、素直に、申し出を受けた。本当は呼び捨てってのは今の俺に合うのかどうか不明だったけど、慣れない不自然さよりはいいんだろうし。

「ああ」
 
 そう言って、椋介はその場から去っていった。

 それを見て、やはり、日常的にそれが行われている訳ではない事を俺は確信した。
 あれほど、俺を心配した智章も椋介もあっさりと俺を一人にした事がそれを物語っている。

 正直俺は、拍子抜けしていた。
 しかし、その方がありがたい事ではあるので、俺は気を取り直して、下駄箱の方へと向かった。

 先程椋介と分かれた所からまっすぐに廊下を進むと右手に購買部があり、その正面に生徒玄関が見える。
 この学校は部活が活発なのか帰宅する生徒が少ない。購買部も下駄箱の回りも数人の生徒だけで、静かなもんだ。
 
 そんな感想を持ちながら、購買部を通り過ぎようとした時、そこから出て来た男に突然、腕を掴まれた。
 
「おぉ〜〜、美人めっけ」

 俺と同じ位の身長だが横に2倍はでかい図体の、いかにも頭の中も筋肉です的なその男は、ごつい顔をやらしく歪め、声を掛けて来た。
 着崩したシャツに緑のネクタイが絡まっていた事で、その男が3年である事が判った。

 不意をつかれ、腕を掴まれる失態。しかも、その声に含まれた欲は俺のよく知っているもので、かなり嫌な予感がする。

 『こんな明るい時間から事を起そうなんて奴らはあまり居ない』って言ってなかったか?椋介。
 ……おもいっきりいるし、ここに……

 さっと周りを見渡すが、ちらっとこちらに視線を向けた生徒が3人、息を呑んでさっさと靴を履いている。購買部の職員は女性で、俺達の様子に気が付かない。その他にも数人玄関の方に居るが、こちらを見て固まっている。

 これは、助けが入る可能性はゼロだな……

「なぁ〜、お前今まで居た?俺見た事ない」
「……離して下さい」
「質問に答えてくれよぉ〜、なぁ、名前は?あ、俺、三村っての」

 そう言って三村は手を移動させ、俺の肩を抱くと顔を覗き込んで来た。
 さながら、ドラマとかで上司のセクハラを受けている女子社員のようだ。
 気持ち悪〜。と心の中で毒づきながら、俺はその手首を持ち、そのまま捻ってやろうと思ったが、それを思いとどまる。少ないとは言え、他に生徒が見ている前で、むやみに本性をさらす事は出来ない、という事に気が付いたからだ。

 俺は、弱さを装い、力なくその手を剥がす振りをして、一応頼んでみる。無理だとは思うけど。

「やめてください。離してくれませんか?」
「怖がらないんだな、お前。面白〜、なあ、ちょっと付き合えよ」
「……断れないんでしょうね?」

 大きなため息を吐いた俺に、三村は、当たり前という顔をして、肩に回した手に力を込める。
 その力は、結構強く、俺は顔を少し歪ませた。

 馬鹿力がっ、痛いだろーーーっ。

「……っ」
「……お前、女よか色っぽいな」
「三村?何遊んでんだあ?」

 むかつく感想を言った三村を睨みつけようとした時に、ふいに後ろから声が掛かった。
 一瞬救いの神かと思ったが、その声は、三村と親しげで、そうではないのが判る。

「あ、奈良岡ぁ〜、これ、ちょー美味しそう。お前もどう?」
「あぁ〜?どれ?」

 声の主は奈良岡と言うらしく、そいつは近づくと俺の顎を掴み舐めるように顔を見てきた。
 奈良岡は三村より一回りでかく、ごつかった。

 ……三村に、奈良岡……どっかで聞いたような……

 あ、柔道部の要注意人物!!

「とりあえず場所移動しねえ?ここだと通報される」
「そうだなぁ〜、なあかわいこちゃん、付いて来いなぁ〜」

 俺は三村に肩を抱かれ、引き摺られるようにその場から離れさせられた。
 恐らく、二人は人気のない場所に行くのだろうから、俺はおとなしく従う。 

 転入初日にして、この学校の要注意人物に次々と出会う俺の不運さを嘆く。
 次は、ラグビー部が乱入したりして……

 そして、俺は、誰も助けてくれないと判断し、覚悟を決めざるを得なかった。
 ネコを脱ぐ覚悟を。
 
 だって嫌だろう?こんなごついの二人相手って、いくらなんでも。

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