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三輪×片山シリーズ
STORY > 青の贈り物 >


 ブルブル震える振動が手の中に伝わる────。

 ……ん?何だ?…携帯…?

 気づくと、握りしめて寝ていたらしい、それが着信を知らせている。

 ハッとして、携帯を開くと三輪の文字が光っていた。

「……っ」

 慌てて起きあがり、ベッドの上に正座をしてしまった。

 ……俺、馬鹿?

 気を取り直し、待っていた事を気づかれない様に、極力不機嫌な声で出た。

「……何?」
『サンタです』

 予想を裏切るその第一声に、本気で呆れた。

 馬鹿だろ、こいつ……。

「どこの馬鹿だ?…………つーか、今、何時だよ?」

 あまりの馬鹿さ加減に、普段よりも低い、おもいっきし不機嫌な声で答える。

『……今、3時40分です。……怒ってます?』
「はあ?3時って朝の3時?んな時間になんの用だよっ」

 イブの予定をすっぽかされた怒りが再燃して来て、語尾が荒くなるのはしょうがない。

『怒ってますよね……。すみません。土曜日から父に埒られて、今自由になったんです。ほんと、すみません』
「……連絡くらいしろ」
『すみません』
「……いいよ。家の都合ならしょうがねぇ…だろ」
 
 本当は、事情も聞きたいし、もっと文句もいいたい。
 けど、そんな女々しい事俺には絶対出来ない。

 だから、そんな言葉が出ないようにぐっと手に握り、我慢した。
 
『ほんと、すみません』
「だから、もういいって。それより、今どこ?自分のマンションに戻ってるのか?」
『いえ、外です』
「帰る途中?」
『……帰る途中、って言えば、そうなんですけど、寄り道と言うか……』

 何か、がさごそと布ずれの音がして、

『……片山さん、外見てくれます?』

 と、言われた。

 ……三輪、もしかして、居るのか?

 俺は三輪に会える期待感に少し気持ちを高揚させ、ベッドの横にある窓から階下を見た。

 そこには、サンタ服を着た三輪らしき人物がバイクを片手で支え、開いた方の手を大きく振っている。

 ……………………。

「……変質者?」
『何、言ってるんですか、片山さんに愛を届けに来たサンタです』

 恥ずかしげもなく言い切った三輪に、引いた。

 と、言うか、何時もと違う三輪に驚く。

 こんな事しなさそうな奴なのに……。

「なぁ、三輪、お前何かあったのか?」
『嫌だなぁ、すっごく怒らせてると思ったから、これ見てウケてくれたら空気も軽くなるかなぁとか思っただけですよ?』
「……ウケるって言うか、引く?つーか」
『……そうですか?』
「う、…ん、ごめん、ま、気が抜けたし、いいんじゃね?」
『…ですね。……てか、片山さん、今からって其処抜けれます?』

 本音を言えばすぐにでも行くと即答したい。
 けど、プライドが邪魔して、俺の口から出たのは、拒否の言葉だった。

「……無理、家族寝てるし」

 「すぐ行く」とか、んな、素直な事、言えるわけねぇだろ……俺が……。

 だから、解れよ、三輪。
 強引に連れ出してくれ……。
 
『……無理ですか?』
「ん、……」
『ちょっとだけで良いですから……これ、渡したいし』

 そう言った三輪がポケットから長方形の真っ白の封筒を出してこちらに向けている。

「なんだ?それ」
『プレゼント、って訳じゃないんですけど、ミュゼ・ルッソの来日展への招待状です。これあると、今日、会えますよ?彼と。片山さん、行きたいって言ってたでしょ』

 三ヶ月ほど前、俺の好きな画家の来日展があるって知った時に、行きたいと騒いだ記憶がある。
 ミュゼは有名で気むずかしい画家だから、来日展でも基本会う事は出来ないらしい。
 会えるとしたら、特別な招待券が必要だと知って、落胆したのを覚えている。

 それを覚えてくれてたんだな……。
 ミュゼと会えるとか、嬉しいんだけど、それ以上に、三輪が覚えててそれを用意してくれてたってのが嬉しい。

 くそ、なんか、ときめいてしまった俺が悔しい。
 けど、幸せだった……。

 ……うがーー、恥ずかしい。
 乙女か、俺は。

 あ、でも、特別招待券って、どうやって手に入れたんだろ?

「三輪、それどうしたんだ?」
『まぁ、色々伝手がありまして……。それはともかく、受け取ってくれませんか?』

 優しく、誘う三輪に、俺はもう逆らわず、素直に行動に移した。

「……それ貰うだけだからな」

 と、言いながら、コートを着込み、ゴミ箱に捨ててあったそれを手に持ち、三輪へと向かった。

 途中、リビングの外で仕事帰りの兄に出くわし、今から出かけると告げ、「今日中には帰ってこいよ」との含みのある言葉を背に外へ出た。

「三輪」

 家の前で、サンタ服を隠すようにコートを着た三輪。
 
 …やっぱ、それ恥ずかしかったんだな。
 
「似合ってるよ、三輪」
「そうでしょ、俺は片山さんのサンタですから」
「意味わかんねー」
「はは、まあまあ、はい。これ」

 差し出された白い封筒。
 俺は持ってきた青いリボンの其れをその上に重ね、

「あ、なんつーの、代わりに、これ、……やる」

 急に、恥ずかしくなって、俯いたままそう言った。

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