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三輪×片山シリーズ
STORY > 嵐 >

「は?今なんて言いました?」

 相変わらず、夜のデートのほとんどを俺のマンションで過ごす俺たちは、これも、相変わらず、俺の作った夕食を共にしていた。
 いつものように、ご飯を食べて、それから、軽くお酒を飲み、片山さんが見たいと言ったDVDを見て、その後、片山さんを可愛がり、甘い空間を味わう予定だった。

 なのに、食後、片付けを終えた俺に、先に日本酒を飲んで、リビングのソファーにもたれ掛かっていた片山さんが言った言葉に予定を狂わされる。

「ん、だから、明日から俺、夜バイトする事になったから、今までみたいに会えねーつったの」

 なんだか、以前にも同じようなニュアンスの言葉を聞いた気がする……。
 たしか、片山さんの受験の時、それの為に、夜のデートが出来ないと言われた。あの時と同じだ。

 基本的に、嘘のつけない片山さんだから、今回も本当に、バイトなのだと思う。
 が、何か、おかしい。

「なんで、こんな急にバイトを?どこで、ですか?週何日?」
「え?あ、週、2回?あ、や、3回だったけか?」

 片山さんは、焦りと言葉を表情に表して、俺から目をそらせるように、俯く。

「で、どこでバイトするんですか?」
「あ、えーと、兄貴の店……あ、なんも、やましい店とかじゃねーよ?俺、やるのも、ウェイター、みたいなもんだし……店自体は、夜中2時くらいまでやってけど、俺は、12時に上がる予定だし、それに、ここ二週間だけ、だ、し……って、み、三輪?」

 途中、慌てて、店の説明をしだす、片山さんを黙って見ていれば、俺に伺いを立てるように、見る。
 その慌てる様に、俺は不穏な何かを感じとってしまう。

 ……それだと、何か隠しているが丸わかりですよ?片山さん。

 片山さんが、隠したい何か、それは、働く場所だろう。

 片山さんの兄の経営する店。それは、その界隈でも、有名なホストクラブ。それを俺が知っているというのを片山さんは知らない。だから、俺に、兄の店で働くと言えたんだろう。

 俺が知っているという事がわかっていれば、俺には絶対に、言わない。
 俺が、怒り狂うのは予想できることだろうから。

 そりゃ、そうだろう、誰が好きこのんで、魑魅魍魎の出没するホストクラブに、俺の可愛い片山さんを働きに出せるというのか。
 今までの俺なら、確実に怒っている。そして、無理矢理にでも、そのバイトを辞めさせる。

 だけど、今回俺は怒らない事にした。
 すこし、様子を見てみたいのだ。

 大学に入ってからというもの、それは、楽しそうに大学生活を送る片山さんに、多少なりとも不満を持っている。

 俺が居なくても平気なのか?
 本当に、俺に気持ちはあるのか?

 そんなよからぬ思いに悩まされる事もしばしばある。

 だが、俺も少しは、大人になった。だから、以前のように、片山さんの交友関係にはあまり口出ししたくはない。

 でも、それが、交友関係を逸脱しているようならば、俺は普通ではいられないだろう。

 だから、試してみたい。
 いつもよりも、誘いの多いだろう場所でも、俺の事を思い続けてくれるのか。と。

 まあ、こんな危ない賭けのような事をしても、必ず、その誘いを片山さんは、断ると確信しているからなのだけど。

 そして、最終的には、俺が知った上で、自分を自由にさせた。という事実を片山さんには、感じてもらう。
 いつまでも、独占欲の固まりのように思われるのも、どうか。と思うから。
 なにせ、これから、一生のパートナーとなる人なのだから。

「み、わ?」

 そんな策略を考えてぼーとしてしまったらしい。
 片山さんが、ビクビクしながら俺を見上げ、俺の態度を窺っている。

 そう、この態度も、そろそろ、終わらせたい。

 片山さんが、こんな態度を俺に見せるのも、元はと言えば俺の所為。
 俺が、嫉妬に狂い、片山さんを犯してしまったトラウマだと思う。

 だからこそ、知りたいし、知って欲しいのだ。どれだけ、俺が思っているのか、そして、どれほど、俺を思ってくれているのか。
 俺たちのこれからの為に。

「すみません、ちょっと、ぼーとしてました。生徒会の仕事が忙しくて……だから、丁度いいのかもしれませんね。片山さんのバイト。失敗して辞めさせられないように、がんばってくださいよ?」

 俺がそう言うと、ぱあーと、顔を明るいモノに変え、俺の大好きな笑顔を見せてくれた。

「ああ?誰にいってんだよ。ホ…ああ、ぅぅん、ウェイター、くらいどーってことねーよ」

 今、ホストって言いそうでしたけど?

 俺は、苦笑しながら、愛しい恋人を抱きしめた。

 抱きしめられて、ビクリと身体を震わせたものの、すぐに、俺に身体を預けるように、力を抜いてくれる。
 俺は、嬉しくなって、より力を込めて、抱きしめた。

「終わるの12時ですよね、帰り大丈夫ですか?俺、迎えに行きましょうか?」
「うっ、いや、いい。大丈夫だ。兄貴もいるし、それに、先輩も一緒だから……」

 …………先輩?

「先輩、ですか?」
 
 俺の言葉に、過敏に反応する片山さんは、焦って、俺の胸から、顔を上げると、

「えあ、益子先輩だから、な。お前も知ってるだろ?」
「益子……先輩」

 俺は、その名前を聞いて、心にどす黒い何かが広がっていくのを感じる。

 益子亮平、か。

 薄茶色い緩くウェーブした髪を揺らし、薄気味悪く笑った顔がちらつき、気分が悪くなる。

「三輪?……どうした?」
「益子さんに、会ったんですか?」
「あ?ああ、昨日、兄貴の店で。なんか、ちょっと前からあそこで働いてたみてーなんだ、世の中狭いよなぁ……って、三輪?」

 俺の様子が変わったのを察した片山さんは、不安げな顔を向けてくる。
 それを安心させるべく、ふわりと笑顔を作り、俺は、片山さんの頬に、手を置いた。

「いえ、なにも、益子先輩がいたら、大丈夫ですね。益子さんは、強いですから、誰かに襲われる心配もないでしょうし」

 益子に襲われる可能性は、十分だがな。
 とは言わずに置く。

 益子は、美術部で片山さんの一つ上に在籍していた。
 俺も、1年の時に面識は、ある。というか、片山さんを狙っていた益子から片山さんを守り、そして、かっさらった。

 卒業時に、あいつは、俺に宣言していった。
 『三輪、俺はまだ諦めるつもりはない。今の内に、せいぜい、高校生の幼稚な付き合いをしておけよ?』

 本当に諦めてなかったんだな、執念深い奴。

 これは、悠長に様子を窺っている場合じゃない。
 でも、片山さんにとって、益子は、尊敬する存在だから、それを不用意に排除など出来ない。
 策を練って、この機会に、益子排除に動くか?
 まあ、まずは、情報収集だな──。

 そんな腹黒い思いを心の奥に秘めながら、片山さんへと顔を近づける。

「でも、十分気を付けて下さいね、この身体も、心も、俺のモノですから……」
「何、いって……あ………んぅ…んん……」

 俺は片山さんに、口づけを落とした。
 俺の気持ちが分かるように、深く、長い、キスを。

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