<< BACK
三輪×片山シリーズ
STORY > 嵐 >

 次の日、俺は情報を集めようと、それに的した人物を求めて美術室へと向かった。

 相変わらず開きっぱなしのそのドアを覗くと、瀬田の恋人であり、俺の良き理解者、中山が見える。
 自分も生徒会の仕事を片づけてから来た所為か、美術室には中山以外誰も居なかった。

「なあ、中山、ちょっといいか?」
「ん、三輪。何?」

 3年になってクラスも離れてしまった、中山と落ち着いて話しをしようと思えばこの美術室へと来るのが一番てっとり早い。
 片山さんの面影が残る、その場所に、今は部長として存在している中山に、ちょっとばかし嫉妬を抱きつつ話し掛けた。

「お前、益子って仲良くなかったけ?」
「え?益子?って、あの益子亮平?」

 俺が在籍中からの中山の指定席、窓際の一番前にイーゼルを設置してデッサンをしていた中山は、『益子』の単語を聞くなり眉を潜めて俺を見た。

 近くに置いてあったモデル用だろう少し豪華な椅子をひっぱって、中山の側に座り話を繋げる。

「ああ、たぶんその益子だ。俺たちが1年の時の部長」
「うーん、仲が良いっていうか、単に通ってた絵画教室が同じなだけ。でもまぁ、時々電話やらメールやらはするけど…」
「それ、仲が良いって言わないか?」
「どうだろう。少なくとも俺と三輪ほどには仲良くないよ?あ、こんな事言うと片山さんに怒られちゃうか」

 にやっと笑いながらそんな事を吐く中山は、俺に負けず劣らず腹黒ではないか、と思う。

「そんな事言ったら、お前は、瀬田に攻められるんじゃないか?」

 腰が立たないくらいに。

 と口の中で呟くと、ピクリと動いた中山の眉に、寒いものを感じて、話題を戻す。

「その益子なんだけど……」
「何?片山さんに接触でもしてきた?」

 平然と言ってのける中山に呆然とする。
 
「なんで、知ってる?」

 少しばかり怒気を込めてそう言うと、中山は肩を上げて戯けた仕草を見せた。

 やはり、こいつ何か知ってるな。

 俺は諜報する人物を見極める己の嗅覚を褒めながら、それを自分に知らせなかった中山に腹ただしさを感じていた。

 それに気付いたのか、中山はやれやれ、といった表情を俺に向ける。

「別に何か知ってたとかじゃないよ。ただ、よくあの人から片山さんの近況を聞かれてたから、何かあったんじゃないかな。と思ってさ」

 そう言う中山にひとまず納得して、話を続けた。

「そうか。…じゃあ、最近あいつ何か言ってなかったか?」

 俺以上に聡い中山の事、些細な言葉尻から推測していないだろうか。
 そこまでじゃなくとも、何かヒントになる物が聞けないだろうか。

 そう期待を込めて中山を見やる。

「最近ねぇ……。ちょっと前になんかホストのバイトする。とか言ってたなぁ」
「ああ、それは知ってる。昨日片山さんから聞いた」
「え?じゃ、益子さんが言ってた店って片山さんのお兄さんの店だったんだ。……うーん、じゃ、片山さんとの接点を持ちたかったとか。ね。まずは身内から懐柔しようとでもしたんじゃない?」

 「片山さんがそんな所行くわけないのにね。」と続いた言葉に苦笑がこみ上げる。

「……その通りになった」
「は?…………なんで?片山さん、あんなとこ興味ないでしょ。散々誘われても断ってるって聞いてた。なのに……」
「それ、誰から聞いた?」
「…………橘さん」

 『橘』の名が出た事にまず、むかつく。

 散々誘われてたって初めて聞いたその事実。
 なのに、それが橘経由で中山に知られていて、それを俺が知らないってのが、更にむかつく。

「もう、ほら、名前だしただけで、怒るから、嫌だったんだよ。俺。てか、橘さんの話じゃないでしょ。今は」
「分かってる。……片山さんは、その嫌いな兄貴の店で2週間バイト。で、益子がそこに居て、俺の迎えは断って益子に送ってもらうんだと」

 ふてくされて、そう説明すると、中山が驚愕の目線を投げかけてきた。

「それ、許したんだ…………なんていうか……三輪。大人になったよね」
「煩い」
「ははは。で、……三輪、どうする気?」
「ん──…」

 実際、どうするも何も決めてない。
 益子が動こうが、どうしようが、片山さんは靡かないだろうから。

 けれど、片山さんをそういう目で見ている奴が周りをウロチョロするのは、目障りだ。

 とりあえず、釘を刺して置くか──。

「中山、益子の連絡先を教えてくれ」

 そう言うと、中山はにやりと笑って携帯を取り出した。

「いいよ。───今メールした」
「悪いな……」

 ポケットに入れていた携帯が短く震え、それを開いて中山からのメールを確認する。
 俺は礼を言って立ち上がった。
 
「気をつけてね。益子さん、ああ見えて、結構キレる人だから」

 真剣な声でそう言われて、ふっと苦笑を漏らす。

「ああ、気をつけるよ」
「ま、三輪の事だから大丈夫だと思うけど」

 その言葉に、軽く笑顔を返し、俺はその場を後にした。 

 この時、俺は中山の警告を、軽く考えていた。
 それに気が付いた時にはすでに、相手の術中で、俺は苦渋を舐める事になってしまった。


niconico.php
ADMIN