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三輪×片山シリーズ
STORY > 嵐 >

 何故、あんな事を俺は了承してしまったのか……。
 目の前のカフェで仲良さげに話している、片山さんと益子の姿を見ながら、後悔していた。

 心は荒れ狂い、だが、この前益子とした約束から、それを見ているしか出来ない。
 乱入して、怒鳴り散らそうと身体を踏み出すのを、すんでの所で押さえつけた。

 それ以上見ていると、本当に乱入してしまいそうで、俺はくっと唇を噛みしめ、踵を返しすと足早にその場を立ち去った。

 

 益子とした約束──。
 それは、1ヶ月間益子が片山さんを口説くのを許す事。
 二人きりで会うのを黙認する事──。



 そもそも何故、こんな事になったのか……。なぜ、そんな約束を守っているのか…。



 俺は、あの日、益子に連絡し、会いに行った。
 
 指定されたファミレスに行くと、悠然とした様子で、奴は俺を待っていた。
 自分の表情が冷たく凍り付いていくのを感じながら、益子の前に座り、紅茶を頼む。

 笑顔を貼り付て、それを見守っていた益子は、一呼吸置いてから、口を開いた。

「で、何かな?」

 微笑みから繰り出される口調は、以前と同じ、おっとりしている。
 なのに、どこか冷たい質感をもっているそれ。

 相変わらす何を考えている変わらない、そんな益子に反吐がでそうだった。

「俺、貴方と話しをあまりしたくないんで、単刀直入に言いますね」

 何時も以上に感情の籠もらない調子で、そう告げると、益子は眉を潜めて顔を歪ませる。

 その様子を見て、俺は満足気に微笑んだ。

 そして、更に、

「片山さんにちょっかい掛けるのやめてもらえません?あの時も言いましたけど、片山さんは貴方にも、誰にも渡すつもりはありませんから」

 と宣言した。
 所謂、先制パンチ。と言うわけだ。

 それを受けて、益子はふっと息を漏らし、苦笑した。

「相変わらず、はっきりものを言う子だね、君は」
「どうも。あなたも、はっきり言ったらどうですか?小細工ばかりしていると、あの時のように、欲しいものを目前で取り上げられますよ?それに、もう、俺達の間に貴方の入る余地などありません」

 そう告げると、益子はさっと笑顔を消し、冷たい表情で、俺を睨み付けてきた。
 それに、俺は笑顔で答える。

 冷たい空気がお互いの間を流れた。
 それを破るようなタイミングで、ウェイトレスが紅茶を運んでくる。

 俺は喉の渇きを感じ、そのまま一口飲んだ。


 俺の言った、益子の欲しい物とは、もちろん片山さんで、あの時とは、益子に

 『片山さんは俺が頂きました。だから、貴方は諦めて下さいね』

 と宣言した時だ。

 それ以降も益子は片山さんをしつこく口説いていたが、あの時の片山さんは俺との事で精一杯なのかただの天然なのか、ともかく、益子の口説きなどまったくもって、気が付いていなかった。

 そして、そのまま卒業を迎え、それから今まで、益子は片山さんに接触してこなかった。

 なのに、なぜ今になって?
 そんな疑問が湧いてくる。

「嫌みなのも変わりないね。……三輪。私は言ったはずだよ?諦めるつもりはないって」

 目前にある、コーヒーをスプーンでかき回しながら、益子はにやりと笑顔を作る。

 その笑顔を見て、気持ち悪さを感じながら、俺は疑問に思った事を聞いた。

「貴方が卒業して、もう、一年になります。あれから、貴方は何もしなかった。なのに、今更何が出来ると言うんですか?」
「さあ?何が出来るだろうね?」
「俺が聞いているんですけど?」

 にやにやしながら、言葉遊びのような言葉を紡ぐ益子。
 そんなやりとりに、段々不愉快さが増してくる。 

「貴方が諦めようが諦めまいがどうでも良いですけど、目障りなんですよね、俺達の前でチョロチョロされると」

 苛ついて、自分の言葉がいつもよりきつめになっている事を理解しているが、それを直す事ができなかった。

 そんな俺に益子は追い打ちを掛けるように、

「何時もそんな風に晴貴の周りを牽制しているのか?三輪。そんなに不安か?そんなに晴貴を信じられないのか?」

 その言葉に俺は動揺してしまった。

 最近自分でも気付いて、それを改めようとしていた。
 なのに、益子に指摘されて、苛立ちが倍増する。

「……っ、そうじゃありません。ただ、不快なだけです」
「そう?私には三輪が何時まで経っても不安に怯えているように見えるよ」
「……そうじゃない」
「晴貴が離れていってしまうのが不安で、だから、お前はあの子の交友関係に目を光らせるんだろう?自分しか見ないように、見せないように」
「違う……」
「独占欲の固まりのようなお前に縛られ、自由がきかないんだろう。晴貴は息苦しさを感じているはずだ」

 「可哀想な晴貴」と言われて、怒りが湧いてくるのがわかり、それを必死で押さえる。

 感情にまかせて、言葉を発すれば、途端に益子の良い風に事態が進みそうで、冷静になろうと勤めるものの、吐かれた言葉にむかついて、どうにもやり過ごせない。
 
 図星を着かれた事に動揺が広がる。

 益子の言った事にこれほど自分を揺さぶられるとは思っていなかった。
 以前から益子の洞察力の鋭さは感じていたが、磨きが掛かったそれを、どうやら俺は甘く見ていたようだ。

 そう気付いたものの、自分の中で広がった暗い思いは消えそうになかった。


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