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三輪×片山シリーズ
STORY > 凪 >
 ふと、視線を感じて窓の外に目をやると、凍り付いた三輪の顔を見つけた。

「…み…!」

 咄嗟に起ちあがり掛けた俺を人の手が阻む。
 阻んだ本人、益子さんに向き、離してくれと視線を合わした。

「どうかした?」
「そこに、三輪が……」

 その時に三輪から一瞬でも目を離し、益子さんを見たのが間違いだったんだ……。

 目線を戻した俺が目にしたのは、冷たい一瞥をこちらに投げつけ踵を返す三輪の背中だった。

 段々と小さくなる三輪の背中を見ながら、追いかけなければ、と思っているのに身体が動いてくれない。

 不安、恐怖、悲しみ……
 そんな物が渦巻いて、呆然と三輪を見送りながら座っていた椅子に身体を沈める。

 なんでだ?三輪。
 いつもなら、俺が引くほどに嫉妬して、こんな場面ならすぐにここに乱入してくるだろ?
 
 やっぱ、もう駄目なのか?
 俺の事はもうどうでもいいのか……?

 三輪──…。




 



 少し前から、三輪の変化に気が付いていた。
 始めに気が付いたのは、兄、皓貴の店へのバイトを話した時だ。

 皓貴の店はホストクラブ。
 そんな所で、バイトをすると言おうものなら、三輪がキレて止めるだろう事は解っていた。

 そんな所で働くのは、もちろん俺の本意じゃない。
 だけど、皓貴に脅されたのだ。

 いつの間にか撮られていた三輪とのキス写真を、イラストレーターである姉、茉子へ渡すと言いやがったのだ、あの男は。
 それが嫌なら、二週間だけ手伝え。と。

 なんでも、再来週に来店する予定の客が超VIPの常連で、その女にアホな兄貴が俺の事を自慢した結果、そのVIPは俺を見せろと言ってきたらしい。
 客には弱い経営者の皓貴は、断る事が出来ずに渋々承諾し、それまでの間に客に出しても恥ずかしくないくらいにはしておきたいらしく、期間が二週間となったのだ。
 
 身勝手な自慢で身内を振り回す皓貴に辟易するが、茉子にあの写真が渡るのはなんとしても阻止しなければならない。
 茉子の手に渡った写真がどうなるか、想像するのも恐ろしいから。

 そんな事情から、今回どうしても三輪には「うん」と言わす必要があった。

 だから、ホストクラブだという事だけを省いて、三輪の許可を得ようとした。
 そうして恐る恐る切り出した其れへの三輪の返事は快諾。

 たかがバイトをするだけに、許可を貰わなければいけないというのは、男として何とも情けない話だが、最初に強姦された時のトラウマは未だに残っていて、いつも三輪の仕草を窺ってしまう。

 そして、相変わらず三輪は強引で、嫉妬深かったのだ。

 橘に無理矢理生徒会長の椅子に座らされた三輪は、少しだけ丸くなったと思う。

 けど、行動に移さないだけで、相変わらず嫉妬深く、俺を縛っているというのを本人は気付いていない。
 俺の大学生活を聞かせる度に、新しく出来た友達の事をしゃべる度に、三輪の眼光が鋭くなるのが怖かった。

 だけど……、
 怖さと同時に幸福感を感じていたのも事実で。

 男同士だというのに、
 離れてしまったというのに、

 未だ見せる執着が嬉しかったから。

 だから、意外にあっさりとした三輪に、俺はほっとしたのと同時に一抹の寂しさと少しの怖さを感じていた。

 束縛が緩んだ事で感じる、それが完全に融けてしまうのではないか?という不安。
 三輪が俺に執着しなくなってきているのではないか?という疑い。

 すなわちそれは、別れへと繋がっているような……

 問いつめようにも出来ないそんな漠然とした不安──。



 その不安が濃くなったのは、皓貴の店に行きだして丁度1週間が経った頃だった。

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