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三輪×片山シリーズ
STORY > 凪 >

 バイトも終わり、久しぶりにゆっくりと出来る休日。
 昨日の事もあって気まずいながらも、俺は三輪のマンションへと来ていた。

 目の前には、以前と変わりなく二人で食べた料理を片づけている三輪。

 何時もと、変わりねーよな……?

 別に、冷たくなったり、興味なさそうにしたり。
 そんな事などまったくなく、何時もと同じ様に俺の世話を焼いてくれているその様子に安堵した。

 しかし時間が経つにつれ、その反応に違和感を覚え始める。
 会話の中にわざと入れた益子さんや大学の友達との話でも、三輪は「そうですか」と、平然と受け流すだけ。
 不満の欠片も見えない。

 それ以前にどこか上の空で返事をしているようで、俺の不安は一気に上がった。
 
 確かに、そう言葉を吐く時に、瞳は迷うように動いていたようにも思えたけど、今の俺にはそれが嫉妬を抑えてのものなのか、確信が持てない。

 もしかして、いつ俺に別れの言葉を吐こうと、迷っているのかもしれないのだ。

 弱くなったな……俺。

 でもそれほどに、三輪の存在は俺の中で大きく、そして、不安の種は大きくなってしまっていた。

「片山さん」

 声を掛けられて顔を上げると、笑顔の三輪が缶ビールを片手にソファーへと促している。
 
「この前から見ようって言ってたDVD、今日こそ見ませんか?」
「ん──…」

 頷いた俺は、三輪から缶ビールを受け取りソファーへと移動した。

 三輪がDVDをセットしているのを何気なく見ていると、部屋に来てからこのソファーテーブルの上に置かれっぱなしだった俺の携帯がいきなり揺れる。

 今の時刻は7時半。
 この時間に今、俺に掛けてくるといえば、たぶん益子さんだろう。

 咄嗟に手を伸ばしそうになったのを止め、鳴るがまま放置を決めた。

 益子さんは、俺を好きだと言っている。
 そして、自分を愚痴のはけ口として利用しろ。なんて、事も。

 そんな人をこれ以上俺の勝手で心乱して欲しくない。

 それに、きっと以前のように気楽に相談なんて俺が出来ない。

 だから、しばらく益子さんとは距離を置こう。そう思っていた。

「……いいんですか?」
「あ?……ああ。いいよ」

 何時までも鳴りやまない電話の気配に、三輪が片眉を上げる。

「……別に、俺に気を遣わなくてもいいんですよ?」

 その言葉に、不意に怒気が湧いて来た。

 結構、限界だったのかもしれない。

「気を遣う?……んだよ、それ。俺がその電話に出てーみたいに言うなっ」

 苛立ったようにそう言と、テレビの前に居た三輪は呆然とした表情を返してくる。

「片山さん?」
「それとも、俺に出て欲しいのか?……お前と一緒にいる時に、お前以外の奴の電話出ても良いつーのか?」

 試すような言い方は女々しいと解っているのに、止まらない。
 本当はこんな事言いたくない。

……こんなの俺じゃねーって。

 止めろよ。三輪。
 何時も見たいに、「そんなの出ないで正解です」とかって言え。

 なのに吐き出された三輪の言葉は、今の俺には残酷に響いた。

「……片山さん出てもいいんですよ。俺と一緒に居るからといって、電話、出ても問題はない。俺以外と遊びに行っても問題は無いんです。……俺は束縛したい訳じゃないですから」

 笑顔で三輪は「束縛したくない」と言う。
 今まで散々束縛していた男が、だ。

 益子さんも言っていただろ。
 嫉妬深い奴はそう簡単に変わらない。

 もしそうなるのだったら、それは……っ。

「もう、いいよ。三輪。解ったから……」

 臆病な俺の脳は、問いつめるのを拒否して楽な方の言葉を吐いていた。

 問いつめて、返ってくるのが今までよりも強い愛情なのか、
 それとも、
 絶望の別れなのか。

 気弱になった今の俺には、どうしても後者のように思えてならない。

 三輪に聞けばすぐに判明するそれらに、目を背けて俺は逃げを選んでいた。


 重苦しい沈黙が俺達の間に流れる。


 それを破るように、また俺の携帯が震えた。

「はい」

 今度は迷うことなく携帯を手に取り、誰か確認せずに出たそれは、やっぱり益子さんで……。

『晴貴?』
「まし、こさん……」
『ん?どうした?声が……』
「いえ、別に」
『……今から気分転換にでも行かないか?』
「あ…でも」
『なに?三輪と一緒?』
「えーと……はい」
『はは…じゃ、無理かな?』

 ちらりと三輪を見ると、こちらを凝視していた目線をフッと外されてしまった。

 やっぱり、止めて……はくれない。か?三輪。

 もう、その時の気持ちはヤケで。
 これ以上三輪と一緒に居る事は出来なくて……。
 苦しくて…。

 俺は安易な逃げ道に益子さんを選んでいた。

「いえ、今から出ます」

 馬鹿な事をしたと思う。

 本当は、

 嫉妬して欲しくて。
 行くなと言って欲しくて。

 なのに結果は、「そうですか」という軽めの肯定で。

 打ちのめされた俺は三輪の部屋を飛び出していた。

 そんな状態で益子さんと会う気はせずに、三輪のマンションを出てから益子さんに電話をして断った。



 それからはもう、歯車が狂ったように三輪と会う時間はなくなった。

 三輪も生徒会が忙しく、俺も大学なんかで忙しかった。
 と、言うのは言い訳だろうか?

 たまに電話で三輪と話しても、弾む話はなくて、益子さんとの事を聞かれた。

 あれから誘ってくれる益子さんには悪いけど、あの人の気持ちを知ってて、今の俺の状態で会う事が出来ずに断っていた。

 だけどこんな状態でもまだ三輪の嫉妬が欲しくて、つい会っていると嘘をついた。
 期待半分のそれは、見事にまた裏切られ、軽く流されて終わってしまった。



 けど……。





……そんな嘘を吐かなければよかった。

 久しぶりに益子さんと会っている時に三輪に遭遇して、現実に去っていく後ろ姿を見ながら、今そう実感している。


 三輪。
 本当の所、お前はどう思ってるんだ?

 怖くて聞けなかったその真意を確かめるべきだと本能が囁くが、それを実行するには今の俺の心は弱すぎる。

 不安がってばかりの俺に問いつめる資格もない。

 背中を向けた三輪に拒否を感じてそう思った。




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