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三輪×片山シリーズ
STORY > 凪 >



 カフェから5分ほど歩いた立体駐車場に益子さんの車は止めてあった。
 車を出してくるから。と言って益子さんがそこに入ったと同時に俺は三輪に電話をした。

 どこにいるか確かめる為と、電話の受け答えで今の三輪が何を思っているか知りたかったからだ。

 まぁ、本当の所を俺が察っせれるか不安ではあるけど……。

 そんな俺を益子さんには見せたくなかったから、益子さんが一人で車を取りに行ってくれたのは好都合だった。

 そうして取り出した携帯のディスプレイに現れる「三輪のばかたれ」の文字。
 緑の発信ボタンを押すのに少し時間がかかった。

 機械的なコール音が鳴る度に緊張が高鳴る。

 1回、2回、3回……

『……片山さん?』

 繋がったと、同時に、不安げな声で三輪は俺を呼んだ。
 心臓の音がドキドキと煩い。

「あ、…三輪、あの、さ。今どこ?」

 あの後直ぐに帰ったとして、ここから三輪のマンションまでは、一駅。
 あいつがバイクで来ていたとしたら、もう家に居る筈。

『え?俺ですか?』
「……お前の携帯に掛けてんだ、お前以外に誰の事を聞けつーんだ?」

 三輪の声がいかにも、意外です。って感じだったから、つい憎まれ口を叩いてしまった。

……なんで、こんなに可愛げがねーの?俺。

『……今自分の部屋ですけど』
「そうか……あのな、三輪。俺、……今から行くから」
『……いいんですか?今誰かと居るんじゃないですか?』

 さっき、益子さんと居るのを見た筈なのに、なぜか「誰か」と言う三輪に違和感を感じる。

 なんだ?
 どうしてそんな嘘つくんだ?

「三輪、見ただろ?あそこに居たじゃん。なのに、なんでそんな事言うんだ?」
『……』
「……なあ、三輪。言ってくんねーと、なんもわかんねーよ」
『……俺は……』

 三輪が何か言おうとした時、駐車場の出口の奥から車が出てきた。
 運転席を見ると、益子さんだった。

 俺は益子さんに向かって手を振りながら、

「三輪、ともかく今から益子さんに送って貰うから、絶対どっか行くなよ?」
「え?…ちょ、待って…片山さ…」

 三輪はまだ何か言いたげだったけど、それを無視して電話を切り、車の助手席に乗り込んだ。

 今から会うんだ。
 三輪の話はじっくり会ってからでもいい。

 そう思っていた。

「すみません、迷惑かけます」
「いいよ。私が送ると言ったんだから」

 益子さんの車が静かに発進して、住宅街を走っていく。

 何故か漂う気まずさを破るように、疑問に思った事を口にした。

「あの、三輪の家知ってます?」
「ああ、以前、静に聞いたから知ってるよ」
「静……ああ、中山。そうか、益子さん、中山と仲良かったですもんね」
「はは、仲良い、ね。端から見るとそう見えるんだな」
「え?仲良くないんですか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだが、そんなに仲が良いと言うほどでもない……ああ、晴貴、これ飲むか?」

 たわいもない会話をしていると、運転しながら益子さんがカップフォルダーに在ったコーヒーを指刺した。
 それは、さっきカフェでテイクアウトした物だ。

 俺は益子さんが飲むのだとばかり思っていたから、少し驚いて益子さんの顔を見ながら「いいです」と断った。

 すると益子さんは、ちらりと目線を俺に向け悪戯っ子のように笑うと、

「そうか?さっきの店であまり飲んでなかったし、今緊張で喉でも渇いてるかと思ったんだがな?」

 ずぼし。だった。

 確かに喉が渇いていた。

 これも益子さんが言うように、緊張しているからか?
 
「……益子さん、飲まないんですか?」
「これ、晴貴の為に買ったから」
「え?」
「これ飲んで少しリラックスしろ。肩に力入ってるぞ?」

 クスクス笑いながら、からかうような益子さんの言葉に、自分がどれだけ緊張していたか解った。

 電話した所為かも……。

 俺は確かに入っていた肩の力を抜き、温くなったそれを手に取って「いただきます」と一口飲んだ。

 苦いブラックの液体が乾いていた喉を潤す。
 コーヒーの香ばしい香りが俺の鼻腔を抜け、ふーと吐息を漏らした。

 少しは、力、抜けたか?

 そう思いながら、2口、3口と欲求のままコーヒーを啜った。

「……ところで、晴貴。さっき誰と電話してた?」
「え?……あ、……み、三輪デス」

 なぜか恥ずかしくなってどもってしまった俺をチラリと盗み見た益子さんが小さく呟く。

「パブロフの犬のようだな……」
「は?」

 言われた事の意味が解らなくて、咄嗟に益子さんを見ると、今まで見た事もない表情をしていた。

 無表情で冷たい。
 そんな表情を──。

「益子さん?」
「……晴貴、もうすぐ着くが、本当に行くか?俺じゃなく、三輪を取るか?」

 こんな冷たい顔で、この人はなにを言っているんだろうか。

 答えはもう出ているし、益子さんに告げたのに……。

 俺は益子さんに不審気な目を向け、はっきりと自分の気持ちを伝えるべく口を開いた。

「行き、ま…す。俺は、み、わ──…」

 三輪が良いんです。 

 と言う事が出来なかった。

 なぜか、見ていた景色が一度ぐわりと揺れ、ブラックアウト。

 寸前、見えた益子さんは酷く冷たく嗤っていた。


「可哀想な……晴貴、救ってあげるよ」

 という言葉と共に──。




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