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三輪×片山シリーズ
STORY > 凪 >
10

「ふざけんなっ!離せ!退けっ!……っ」
「うあっっ」

 カッとして今まで以上の激しさで身体を跳ねさた瞬間手への拘束が緩んだ。
 俺はそれを逃さず振り切り、そのまま両手を握りしめ益子さんの側頭部へと打ち下ろした。

 ガツッと音がしてうめき声と共に益子さんが俺の横にゆらりと傾く。その隙に益子さんの身体から抜け出した俺は素早く身体を起こし、這うようにしてベッドから降りた。

 服の乱れも両手の拘束も気にしている余裕などなく、そのまま走ってドアの方へと向かう。

 部屋は暗くなっていたがフッドランプのお陰ですんなりとドアまでたどり着けた。

 これで助かる──…。

 そう安堵した瞬間、肩を強い力で引っ張られていた。
 その勢いに振り返ると、怒りに歪んだ益子さんの顔があり、シュっと何かが風を切る音を聞く。

 一瞬息が止まった。

 次の瞬間内蔵が捻れたかのような衝撃を自分の腹に感じて呻く。

「はっ……あ、ぐっ……かはっ」

 益子さんの見た目からは想像付かない重い拳が俺の腹にめり込んでいた。
 痛いというよりも、熱い衝撃に身体は前に傾むき、それを待ち受けていた益子さんの胸へと倒れ込んだ。

「捕まえた。晴貴。さあ、戻ろう……?」
「く…ぅ…離、せ…ぃやだっ……はっ…」

 穏やかな声でそう言い、俺を抱かえると再びベッドへと戻っていく。
 抵抗しようにも殴られた腹からの痛みで、俺の身体は思うように動かない。
 俺は益子さんの肩ごしに今まで目前にあったドアを見つめ、もう駄目かもしれない。と恐怖に駆られていた。

 俺は三輪以外の奴に、……こんな奴に良いようにされちまうのか?
 嫌だ。嫌だ!

……助けろよ。三輪っ。……三輪っ!

「晴貴を傷つけたくなかったけど、これはしょうがない。不可抗力というやつだな?さあ、大人しく私のモノになれ」

 そんな事を呟きながら、俺をベッドへと放り投げ、そうなっても尚くの字になって苦しむ俺を見下ろし嗤っている。

「こんな、事をしても、無駄だ。どんな事をされても、例えあいつが俺を拒否しても、俺は絶対あんたを選ばない」

 痛む身体を無視して身体を起こし吐き捨てるように言うと、益子さんは俺の顎を強い力で掴み上げ顔をぐっと近づけてきた。

 逸らしたら負けとばかりに益子さんを睨むが、視線を合わせているようでどこか遠くを見ている事に気づいて不審に思う。

「また暴れられると困るな……縛るか?そうだな。そうしよう。もう私から逃げないように……どこにも行けないように攫ってしまおう」

 ギシッと二人分の体重に耐えられないと言うようにベッドが泣く。

 暗く濁った瞳に映るのは情念。
 俺の言葉など聞こえないような独り言。

 すでに話も通じなくなっているのか、と恐怖は一層増した。

 どんどんと狂っていくような益子さんはきっと俺を解放しないだろう。
 だとしたら、俺はもう三輪と会う事も出来なくなるのか?

 こんな事ならもっと早くお前と話しをすればよかった。

 はっきりと聞いとけば、こんな事にならなかったのか……?


 なあ、三輪。
 あの時電話で何を言おうとしてたんだ?

 今となっては後の祭りだけど、三輪、聞いておきたかった。

 どんな言葉でも、お前の口から。

 三輪。

 それでも、俺は…… 


──トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル

 突然暗い室内に鳴り響いた部屋に備え付けてある電話の音。
 ぶつぶつと独り言を言っていた益子さんも気が付いたのか舌打ちをしている。

 中々鳴りやまないそれを忌々しげに益子さんは取った。

「……はい。……は?……違う。そんなもの頼んだ覚えはない。ああ、違うと言っているだろう!」

 ガチャンと乱暴に切られた電話。

 振り返った益子さんが浮かべた笑顔にゾクリと悪寒が走った。
 逃げようにも恐怖に支配された俺の身体はベッドに縫い付いたように動かない。そんな様子を笑って見ていた益子さんの手がシーツを掴み、それを俺の縛られた両手へと巻き付ける。

「止めろ…離せっ……」

 どうにか動いた手を振って阻止を試みるが、縛ってあった支点を握られベッドに引きずり倒された。

「すまんな、待たせた。再開しよう。晴貴」

 やはり俺の言葉など聞いていない益子さんは、思い出したように暴れ出す俺を押さえつけ拘束すると、そこを結び、余った端をヘッドの柵にくくりつけてしまう。

 それでも尚逃げようと動いた足をとられ、下方に引っ張られれば固定された手は頭上で動かず、手を挙げた状態となってしまった。
 これでは容易に起きあがる事も出来ない。
 しかも真っ直ぐ伸びてしまった腹からは、殴られた痛みが襲ってくる。

 どうにも出来ず痛みに眉を潜めるとそこを益子さんに撫でられた。

「そんな顔も綺麗だ。晴貴──…」

 再び馬乗りになった益子さんが、うっとりとした表情で俺の首筋をびちゃと音を立てながら舐めてくる。
 途端に肌が粟立った。

 気持ち悪い。

 それしか頭になかった。

 そんな俺の気持ちなどお構いなしに、益子さんの頭はどんどんと下に降りていく。
 拘束を強められた今、抵抗などほとんど出来なかった。

 不快感と恐怖に彩られた脳は嘔吐感を俺に促す。

 さっきまで遊ばれていた胸の部分を素通りして濡れて萎んだソコに到達した時、気持ち悪さは頂点に達した。

「ひぃぁっ!……嫌だ!止めろっ!気持ち、悪ぃーーっ。止め…嫌だ!!」
「気持ち良い。の間違いだろう?晴貴」
「違うっ!違う。違う!……止めろぉっ!」

 否定したものの、にやけた顔の益子さんが言う通り、俺は気持ち悪さと同時に湧き上がっていた快感を掴み取り、絶望していた。

 込み上げてくる嗚咽。

 だけど、益子さんにその姿をさらす事など出来ずにぐっと両手を握りそれを押さえた。

「嫌、だ……触れるなっ!…………三輪……三輪ぁっ!!たす……」



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